半身
 白い指先が雷堂の顔の傷をゆっくりとなぞる。その白さを女の指のようだ、と雷堂は思うが自分も大して変わりはないのかもしれない。それに白い指は細いというより骨張って、所々皮膚の固くなった部分もある。白磁でできた人形のようにはいかない。
 彼がなにを思って傷口をなぞるのかわからず、それでもじっと指先を眺めていると、その後ろで唇が囁くのが聞こえた。
「よくみると、ずいぶんと違う」
「何?」
 思わずまばたきをして訊ねる。己と同じ顔が言った。
「もっと鏡をみるようだと思っていましたが、よく見れば僕とあなたは似た所のほうが見つけ辛いようです。おもしろい」
 視線を移すと、硝子玉のような瞳と視線がかち合い、かちん、と涼やかな音がしたような錯覚さえ憶える。
「おもしろい?」
 ええと答えたライドウは雷堂のほうへと身を乗り出して、指先を傷口から離し、今度は眉間に押し当てた。それから微笑むと、おもむろに唇を重ね合わせてきた。
 刹那、雷堂は肌が粟立つように思った。悪魔と対峙する瞬間の感覚よりも身体に強く訴えかけるその感覚から、逃げ出したいと思った。
 けれどライドウは狼狽した雷堂がその身体を押しのけるよりも早く退いて、「ほら」と言うだけだった。
「おもしろい」
 僕なら接吻程度で動じはしない、と。
 ライドウはふふ、と笑った。それは自分と同じ顔をしているはずだというのに、見覚えが無い表情だった。
 雷堂は背筋が寒くなったのを振り払うように、悲鳴じみた声をあげた。
「我を侮辱したいのか!」
 しかし我が事ながら、頬が紅潮しているのがわかった。これでは睨みつけてやったところでなんの意味もなさない。
 案の定、意味はなかった。むしろ、喜ばせたようだった。
 ライドウは一瞬目をみはり、それから、くく、と喉で笑った。
 くくと笑うライドウが頭をすこし落とすものだから、もう雷堂からは帽子の鍔に隠れて硝子玉のような目玉は見えない。ただ、白い顔の口元で、紅を引いたような美しい形の唇が笑うのが見えるだけ。それでも、どのような顔をしているのかはわかる。それこそ鏡をみるように、わかる。知っている。

*2009/3/7リライト。

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