どろりとした血の感触が頬を伝うのがわからないのか、刀の血糊は振り払ったくせ、自分の頬に跳ねた悪魔の血を拭わずにライドウは仲魔を管へと戻して、何事もなかったかのように歩きだそうとした。
 悪魔の血の色といっても、赤だ。また、常人に悪魔の姿は見えずとも、そうした痕跡はデビルサマナーの身体を介すことで異界から実界へと引きずり出されて存在を確立させてしまう。つまりそうした悪魔の血液は誰の目にも見えるものなのだ。
 ライドウが表路地に出る前にゴウトは黒猫の小さな足のバネを最大限利用して、書生の肩へと飛び乗った。
「ゴウト?」 と相変わらず表情には現れないものの、わずかに驚いた書生はしなやかな猫の身体を己の腕の中へと誘導した。
「馬鹿者め、気をつけろ」 ゴウトは腕に絡めとられながらもなんとか書生の頬に顏を近づけ、舌を伸ばした。小さく、ざらついた舌が二度、三度ライドウの白い頬を舐める。
「血か?」
「そうだ」
「――毒だろう」
 確かに、猫の身体には少々の毒だ。悪魔の血はただの血液ではない。しかし業斗童子とて、ただの猫ではない。マグネタイトの色を漏らす瞳をつつと細めて、ゴウトは一声鳴いた。「俺が誰だか忘れたか」

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