営業記
美しい貌の青年が、ときおり店へやってくる。絵に描いたようなモボだ。学生服を外套に隠して、静かな声で彼が声をかけてくるのは決まって夕刻であった。
「すみません」
声からして涼しい声だ。
はいよ、と店先に出れば、やはり今日もそうだった。
小さなかごにいつもみっしりと駄菓子をつめている。
「毎度ありがとうねぇ」
駄菓子屋というのは子どもと、あとは大人が懐かしがって買うものだ。だから、案外に彼のような年頃の客はめずらしい。
それもいつも、子どもたちが大勢やってきたあと、ぽかんと空いた時間にやってくるのだ。見計らったようだが、曜日もなにも決まっていないものだから、きっと偶然なのだろう。
そういうわけで、彼は特別記憶に残りやすかった。もちろん、その容貌の美しさも理由ではあるが。
紙袋につめた駄菓子と代金をひきかえる。
年頃の青年よりも、どことなくではあるのだが、しっかりとした手のように思われる。切りそろえられた爪か、指のかたちか、なにかは具体的に言えないが、いつも小銭を渡す手を意外なように思う。いつもはそれだけで終わるが、今日はさらに発見があった。
これまで気づかなかったが、そうすると外套の袖下が見えるのだ。
目に飛び込んできたのは、刀だった。腰に白い革ベルトが巻かれ、そこに差し込まれた刀が見えた。誂えてあることは明白な代物だ。それに、指揮刀などのような西洋刀ではない。日本刀だろう。鞘越しに刀身の重みを感じる。しかし気になるのはめずらしい鍔だった。なんといったか忘れたが、塗り分けるとすれば白と黒で入り混ぜるよう勾玉を並べたものが、半分ばかり透かしてある。
呪術的なものだろうか。そのおうに考えつつ、やはりわからぬまま目を奪われていると、彼はさりげなく裾を下げ、刀を外套で覆い隠した。
そうするとすらりとした姿に隠れて、日本刀を隠しているとは一目ではわからない。不躾な視線を向けてしまったことも忘れ、よくも隠せているものだと感心を覚えた。
しかし、帯刀しているだけで捕まるようなこともあるご時世だ。こんな綺麗な子がこのような物騒な物を持つなど、よほどのっぴきならぬ事情があるのでは。しかし彼は口を挟むことも許さないと言いたげに帽子の鍔で礼をし、いつものように出ていった。
来週も彼は来るだろうかとぼんやり考えながら、彼の手で閉められる戸を眺める。
戸の隙間で、彼の足もとに雪だるまが見えたように思ったが、もちろん気のせいだろう。彼がくると不思議なことばかり探してしまって、どうにもいけない。