取るに足らない
 鬼だ海賊だという割に、付き合いができてしまうとどうもその自称に首をかしげるところがある。
 案外にそれらしいところがないのである。
「田舎者であるからか?」
「似たり寄ったりのあんたに言われたかないんだが」
 田舎じゃねぇし突然何だと舌打ちなどする頭を掴んで、右へ左へと向けさせる。我の細腕など気にもとめぬくせ、こういう所は素直である。しかし海賊や鬼が素直でどうするのか。白く色抜けた髪などはたしかに常人らしからぬが、それを除いてしまえばこの長曾我部という男はそれこそ漁師やなにかのほうが正しいのではないかと思われた。
 ただ、海賊らしいといえば目であろうか。片眼を覆い隠す大仰な眼帯は、たしかに海賊らしいかもしれぬ。
「この眼はどうしたのだ」
 聞いたことがないなと気づいて尋ねると、誤魔化すように明確なことを言わぬ。
「外せ」
 さもなくば捲ってやろうと指を差し込むと、慌てたように無骨な手に止められる。それだけでなく頭を掴んでいた手首を捕まれ、不快に顔が歪む。長曾我部もそれを見取って眼をそらした。眼の大きな奴だから、すぐにわかる──素直なのは表情もだ。単純と言えるやも知れぬ。
「む。まずい理由でもあるのか」
「や、あんたの細っこい指に外されんなら、閨がいいなーと」
「ならば一生その機会は訪れんな」
 またも舌打ち。無礼な奴めと掴まれたまま手を拳にし、白髪頭を叩いてやる。
「外して見せよ」
「……いいけどよ」
 長曾我部はしぶしぶ、といった体で我の手を離し、首後ろに手を伸ばしたかと思うと、手間取ることなく眼帯を解いてみせた。
 そうしてみると、取り払われた布地の面積の広さに驚き、そして隠されていた左目にも驚いた。
「……なんでもないではないか」
 ──例えば。噂に名高い独眼竜といえば右目を切り取った逸話がある。その傷口はきっと、あまり見目の良いものではないだろう。
 しかしこの長曾我部ときたら、独眼竜などより目立つ眼帯をしながら、その下に隠れているのは、なんの変哲もない、ただの目玉ではないか。みたところ視力が低いようにも見えぬ。
「謀っておるのか?」
「謀……ってねぇよ、いや、そういうんじゃなくて」
 なにが答えづらいのか、うーんと頭をかいた。
「まァ、箔付けってのもないわけじゃねぇんだけどよ」
「はっきり申せ」
「眼を暗闇に馴らしてんだよ」
「……まさかと思うがそなたの軍はそれほど貧窮しておるのか?」
「何の話だ。そんなわけねぇだろう。これは船乗りには大事でな。暗闇に慣れた眼なら星を読むのも、暗い船の上でも楽だろう」
「──ふむ」
 我に見えぬような世界を見ておるのだなと言えば、嬉しそうな顔をして、眼帯をつけなおす。
 別に褒めたわけでもなく、我の世界にはないものだと思っただけだが、訂正するのも億劫でやめた。どうせ取るに足らぬことである。覚えているのもばからしいほど。

*チカちゃんは両目無事そうだなーという話

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