罪を知らず
 明智はより強く吹雪き始めた銀世界の中で、細い身体の線がわかるほどの薄着だったが、すこしも寒さを感じていないようだった。いつきには女神の加護があるが、明智はただの人ではないのか、またそうであるのなら寒さに震えることもないその身体は雪などよりよほど冷たいものだということか、などととりとめようもないくだらないことをいつきは考えた。怖気がするのはそのせいかもしれない、と己の心のうちに言い訳をするように。
 死神の呪われた鎌は血糊と雪で斑になっている。そしてその周囲には無数の骸。見覚えのある仲間たちの成れの果て。敵味方関係なしに周囲の魂を刈り取ってゆく幽鬼のような男がふらふらと彷徨い歩くほどに増えるそれ。「逃げろ」と託された願いを振り払うように足を止めてしまった自分は彼らの犠牲を無駄にしてしまったのではないだろうか。その事実を認めればいつきの胸が押しつぶされそうなほど痛む、けれど明智の言葉を待つように、もはや一歩も動くことはままならなかった。
 明智は自分の半分ほどの背丈しかない少女を見下ろして、くすくすと囁くように笑う。「自分のことをよくみてご覧なさい」
 その諭すような口調に、いつきは反射的にサルタヒコを振りかぶった。
「何を…っ何を言ってるだ!」
しかし激情など知らぬといった素振りで、明智は微笑むだけだった。
 さくり、と雪を踏む足音がやけにはっきりと耳に届く。
「ほら、ご覧なさい。稲を育むのも、米を刈り取るのも、命を奪うのも同じその手だ」
 まったく罪深いことですね、と雪の上とは思えぬほど俊敏な動きで前に踏み込んできた光秀は冗談めかして笑った。振り下ろされた鎌は持ち主のように冷たく見えるというのに、とっさに言い返せないいつきへ、炎のように熱い痛みを与える。「っ…あ」ぼたぼたと零れ落ちた血が雪を溶かす音に目眩がした。
*みっちゃんに夢見すぎ。

<<return.

*Using fanfictions on other websites without permission is strictly prohibited * click here/ OFP