染脳
 倒れ込む悪魔の息は絶え絶えで、絶叫をほとばしらせた喉からはもはや声もでないらしい。しかし目の前のデビルサマナーを睨みつける気概はまだ十分にあるらしかった。今にも憎いデビルサマナーの若造を頭から喰ってやりたいと機会を伺っているのがありありと見てとれた。
 ライドウはじっとそれを見ながら表情を変えず、構えた七星葛葉で鋭く悪魔の喉を突き刺した。刃が肉を貫く感触に間髪を入れず、突き刺した刀を力一杯真横へと引き抜く。すると肉も骨も抵抗なく斬れ、噴き出す血は地表を濡らすことになった。そのため、悪魔はとうとうは絶叫を上げることさえできないまま、マグネタイトの輝きが砕けるように淡く消えていく。刀にべっとりとついてしまった血糊を振りはらえば、異界化もようやく解けたようだった。一本先の道からか、人の談笑する声が、ふいに耳に入った。そして背後から黒猫が咎めるようににゃあと鳴く。
「――仕方がなかった」 刀身を鞘に差し込みながら、ライドウは呟いた。そうしてたった今まで悪魔のいた場所をじっと眺めてみるが血痕さえも、もはやそこにはない。猫はライドウの視線を気にした様子もなく、その足元へと歩み寄る。ライドウはその気配に振りかえり、言葉を続けた。
「あれは弱いものではなかった。手を抜けば危ない相手に容赦をするなと言っているのはおまえだ」
 黒猫のゴウトはそうだろうなと肯定をしたが、否定もした。
「仲魔を呼べばよかっただろう」
「それで――長引かせるべきだった、とでも?」
「阿呆め。そうではない。長引かせるべきではないと思ったのなら、もったいぶるのはやめてやれと言っているんだ。情報を聞きだすつもりもなかっただろう? サマナーならば、悪魔と仲魔として使役するだけではなく悪魔を悪魔として認識してやるべきだ。貶めてはならん」
「貶めてなど……悪魔は悪魔だ――わかっている、ゴウト」
「わかっとらん。仲魔でなければ皆殺しであっても平気だろう、おまえ」
「それが帝都に害なすものであれば、すべて――滅ぼすのがこの名を持つ者としての役目だ」
「否。おまえの役は帝都を護ることに他ならん。違えるな」
 ゴウトはもう一度、念を押すように違うことだ、と言った。そしてその真意を理解のできないライドウが黙り込むと、怒ったような困ったような様子となり、勝手に表通りへと飛び出した。

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