傷つけ方しかわからない
「なに、旦那はそんなに俺の再就職先を探させたいっての?」
 冗談でも言うような、いつもの軽い調子で佐助は言った。だが視線だけは不躾に鋭くして向けてやる。主に対する態度ではないということは十分承知ではあるのだが、それを許されるどころか半ば強要されて半生を過ごしてきたので今更改める気にはなれなかった。それに、佐助がこうしたところで結局なかなか応とは言わぬ主である。どうせ今の提案がどういった意味を持つものなのか、わかっていない。すくなくとも考えつくのは忍の道理ではないのだ、仕方が無い。しかし仕方が無いという一言で押さえられるほど軽い言葉とは言えなかった。そう、忍にとっては。
「そうではない」
 猿飛佐助が主、真田幸村は居心地が悪そうに顏をしかめたが、否定の言葉を返した。しかし長い後ろ髪をまとめることさえもせずに、ややだらしがないと言えるような格好で文机へと肘をつく。
「人と喋るときは肘つかない!」
「今ぐらい許せ」
「だめだよ、そういうのってどっかでボロでちゃうんだから……つーかあんた人の話真面目に聞く気ぜんっぜんないでしょ。いいかげんにしないと俺様でも怒るよ」
佐助が自分の無作法は棚にあげていっそ脊髄反射的な注意をすれば、肘をつく青年の眉間にム、と皺が寄る。喧しい、と顏に書いてあるのが見えるようだった。
「すでに怒っておるではないか」
「怒ってない! 呆れてんの!」
「だから、なぜ怒る必要があるのだ、佐助。おれはそもそもなぜおまえの再就職先の話が出てきたのかがわからん」
「そりゃ、あんたがもう俺はいらないって宣言したからでしょうよ」
「言っておらんぞ」
「言・い・ま・し・たッ! ……あのね、俺様これでも忍なの。真田忍隊の長なんかもやっちゃってんの。知ってた?」
「馬鹿にするな!」
「だからそりゃこっちの台詞だって」
 佐助は肩をすくめて、長いため息をついた。 「旦那、気遣いは嬉しいよ。でも、俺様から忍であること取り上げたらなんも残んないの」
 だから俺から役目を取らないで、と佐助が懇願をすれば主の目からほろりと涙がこぼれた。それに思わず佐助がぎょっと目をむけば幸村は無造作に涙を拭って、いくらか調子の落ちた声でもって「すまん」と一言謝る。それが嬉しいと思う反面、二人はどこまでも相容れないのであると思い知らされたようで佐助の心臓はわずかに痛んだ。
*甲斐争乱に行ってきて血が滾ったので吐き出し。
旦那の一人称は迷ってるけど、某ってへりくだった一人称なんで佐助には俺でお願いしたいなぁと思っている。

<<return.

*Using fanfictions on other websites without permission is strictly prohibited * click here/ OFP