翻弄
 十四代目は従順なようにみえて、案外と人の話を聞かないところがある。それどころか、厄介なことに頑固だ。
そのことに文句を一つ零したところで「でも、ゴウトは従順すぎることも好しとはしないのでしょう」とくる。お目付役としては腹立ちまぎれに顔を引っ掻いてやろうかと思わずにいられない。なにしろ彼の言うことも間違ってはいない。従順すぎればただのでくの坊ではないか。そんな者はライドウの名にはふさわしくない。だから十四代目はそういった面においては、ふさわしくないとは言えない。けれど腹立たしいのだ。無性に。
「ゴウト、折角ですから路面電車に乗りましょう」
 青年は黒猫を拾うように抱き上げて、マントの下に隠すように抱え込んだ。人形めいた容貌を解かしそうに甘いその呼びかけはまぎれもなく猫に向けられたもので、よもや黒猫の正体を見通せぬ常人の目には溺愛の象徴にも映っただろう。なんという侮辱だと思いながら、猫の身では反論なども意味を成さないというはがゆさが尻尾の先まで疼かせるーーだいたいこの、腕のなかの納まりの良いことと来たら! 
ああ、腹立たしい。なんという腹立たしさ。
 ゴウトへせめてもの反抗に学生服の袖口がほつれるように爪を立てた。

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