喧噪の収まった戦場を無言で進む主の後ろ姿を大型手裏剣を無造作に持ったままゆっくりと追う一つの影がある。影というには忍んでさえいない迷彩色に身を包んだ忍びは真田忍隊が隊長猿飛佐助その人である。つまりその主、前を歩く真紅の鬼こそが真田源二郎幸村である。一対の槍を携えた彼は柔らかな骸の中をただ進む。
 先程まで幸村が操っていた対の槍はやはり彼自身の装束と同じように赤く、矛先は鬼の本性を模すように炎を携えていた。しかし戦時とは異なり、すべてを焼き払う苛烈さはなりを潜めており、それはまるで鬼火のような静けさであった。
 骸を焼いてしまわないことが不思議に思えるほど無造作に下げられた矛先に灯る炎はまるで清めのようにも見えた。幸村はただ本陣に戻るために最短の距離を歩いているだけのことではあるのだが、炎のように熱く騒がしい彼の姿の知るものから見れば、特別な意味を持つようにも見える。だがそれも、すぐ側に寄らなければそれとはわからないほどに気迫に変化がなくとも息が切れ、顏に憔悴の色が浮かんでいるからだ。
 ふいに、重心がぶれるように足元が危うくなる。それでも赤鬼の後ろを歩く忍びは黙ったまま、駆け寄ることもしない。その代わり主の背後を狙うかのように骸に混じった息の残る者へと、大きな二枚が細い鎖で繋がるといった構造の獲物を向けた。佐助が主のよろめきに感心を示さなかったことと同様に、それに対して幸村は振り返りもせず、歩むのも止めない。
 そのようにして、幾度か鉄の鎖が一際大きな音をたてるのが静かなばかりの戦場へと響いた。

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