笑う男
 拳骨が軋む痛みに目を細めれば、それを嘲笑するような視線が向けられた。なので今度は腹立たしさに任せて、倒れこんだ男の腹を蹴る。しかし呻き声にこちらが笑みを漏らせば、今度はくくっと喉を鳴らされた。
「理解できんな。これが愉快か?」
「いいや、不愉快だな」
でも笑っちまうんだ、と男は言った。白い髪が新たに一筋、頭を振るのと共に地に落ちる。
 足元に倒れるその長躯を見据えて、何を言うべきか、言える言葉を探している自分に気付いて、眉を寄せる。何故、言葉をかけねばならないと思ったのか。自分でも不可解だった。
「毛利、」 と隙をみたかのように呼びかけられる。
「黙れ。その汚れた口を閉じよ」
ぞわりと粟立つものを感じて、喋りきるより先に切り捨てれば、男は言うとおり口を閉じた。しかし自分をじ、と見据えるその目は隻眼ながら雄弁で、見上げているくせに、まるでそちらこそが手の届かない、崇高な場所であるかようだった。
「――目も、閉じよ。貴様の負けだ。貴様は、我が采配に負けたのだ」
 嫌悪かなにか、声を震えさせる何かを飲み込み、要求する。
 はは、と掠れた声で男は笑い、しかし大人しく一つきりの目を閉じた。

*名前も呼ばない。

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