振るい払った刀を滑らかな動作で鞘に収めると、異界との境界線は正され、業斗童子がどこからともなく姿を現した。そういえば、戦闘中はいつもうまいこと姿をくらましているこの猫はどこへ行っているのだろう。
ライドウはじっと黒猫を見つめて、しかしなんと問えばいいものかわからず黙り込んだ。
「なんだ、十四代目。なにか言いたいことがあるのか?」
すると業斗童子は緑の、爛々と輝く美しい瞳をするりと細めて顔をあげる。
威厳に満ちたその愛しい猫を見下ろしながら、ライドウは首を振った。
問うことが難しいのではない。だが、きっと問えば「くだらないことを考えている余裕があるなら」と説教がはじまるに違いない。
「――なんでもない」
ライドウは猫から目をそらすように、路地の向こうに目を向けた。もう通りの向こうの雑踏が聞こえる。