受容
 衝動が身体を、意思よりも早く突き動かしている、とライドウには時折そう感じられた。どのように跳べばいいか、いつ、どのような位置で相手が返すのか。そして自分がどうすればどのような結果が導かれるのか、そのようなことが考える前に頭の中に巡るような錯覚のまま、身体が動く。まるで他人の操り人形のようだ、と思う半面、身体の軽さに気分が高揚し、喉から笑い声さえ零れそうだった。ライドウは息を切らすことなく呪を唱え、印を結び、マグネタイトが煌々と輝く管を胸元から引き抜いた。
 封が解け、雷柱が落ち、全身の鱗が鈍く輝く魔王の長躯が顕現する。
 瞬く間に表れたベリアルが纏う炎の熱は、ライドウの青いともいえる白い肌をわずかに照らし、黒い外套を焦がしそうになった。
「ベリアル――」
「おうおう、わかっとるわい。まったく――悪魔使いの荒いさまなぁじゃの……」
 ベリアルは自分を一瞥さえせずに声をかけるライドウにため息を向けたが、その手に握る三又の槍はすぐに熱を帯びた。同時に燐光めいた炎が立ち上り、魔王の躯から発せられる熱が急速に跳ね上がって行く。「どいとれ、さまなぁ!!」
 向けられた声と共にライドウが反射のように飛び退くと、それを追うように業火が立ち上った。己の反応が一瞬でも遅れればあれをまともに浴びたのだと考えながら、ライドウはそれを見た。そんなことはまずありえないとわかっていても、もしも、と考えるのは癖のようなものだ。
 ライドウは意味もない思考を巡らせる間に、全てを焼く地獄の業火が大地を舐める。炎が収まれば、そこには灰さえも残らない。「はっは! どうぢゃ! ワシの華麗なテクは!!」
 そして炎の後に残る、魔王の子供じみたはしゃぎようと、たった今全てを焼き払った炎の刹那の美しさにライドウは唇だけで笑った。しかし口をついて出るのは素っ気ない帰還命令だった。そのため、マグネタイトの残滓を残して管へ帰還するベリアルを見ながら、ああやはりこの肉体は己の意思だけでは動いていないのだ、とライドウは実感をした。
 なに、だからといってそれが悪いとは考えたことさえないのだが。

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