もてあますのは
 人でなしだ、と罵れば気が済むのか。そう問われれば言葉につまり、政宗は開きかけた口を噤んだ。そんなことを望んでいるわけではない。しかしではどうしたいのか、どうすれば気が済むのだと問われるとわからなかった。
 すると、仕方がないとでも言うように光秀がもう一度口を開いた。
「何度も言うようですが、私にはどうでもよいことなのですよ。独眼竜」
 じ、と見据えれば、瞳がそらせなくなる。「謝罪の言葉がほしいと言うのなら、謝りましょう。けれど、私がそれを悔いたりすることは永劫ありませんよ」
「俺は――説教してぇわけじゃねぇ」
「ならばなにをお望みですか」光秀は刃物のようにぎらりと言葉を鈍く光らせて政宗を見つめた。
 腹が立つ、と政宗は思った。光秀にではなく、わかりきっていることを、変えようもないことをもどかしく思う自分の愚かさが一番憎くてならなかった。光秀は正しい。間違ったことを言ってはいない。思ってもいない。ただ、それらの価値感がすべて政宗と違うところにあるというだけの、単純な問題なのだ。
 光秀がいつき達を退けたのはいつきから仕掛けたことだからであり、価値感は違えども、暴動を阻止をするのは当然のことだ。それは政宗もわかる。政宗も一揆に対して鎮圧をしかけたことがないわけではない。ただ、光秀の場合は根底がいけない。そこには感情がない。疑問がない。慈悲がない。それは光秀が血に飢えているからでもあり、歪んだともいえる――だがこれもやはり政宗の主観であって光秀にとってはそれが正常だ。わかっているつもりではあるのだが――価値感を持っているからだ。元からそんなことはわかっていたはすだし、ありえないことではなかった。これまでこのような問題がなかったことのほうが驚きと言えるだろう。けれど夢を見ていた。戦の場で光秀を見る機会が遠かったこともあり、夢を見てしまっていたのだと冷や水を浴びた気分になったのを、改めて政宗は思いだしていた。そう、夢を見ていた。まるで別人のように穏やかな平常を過ごしている男に、政宗は確かな夢を、愚かしい夢を抱いていた。今こうして幻想がはがれただけのことで、光秀自身にはなにひとつ変化などはなかったというのに。
「この結果として、いつか――私を憎んで、呪って、誰かがやってくるなら……ねぇ、まるで色恋沙汰のようではありませんか。ふふっ、結構なことです」
「crazy! やめろ、自殺願望に聞こえるぜ」
「――いけませんか?」脂汗を首筋に浮かべる政宗とは対称的に、うっとりとした顔で光秀は言った。「誰かに強く想いを向けられて終わる人生以上に、価値のあるものなどこの世のどこにもありはしません」
 それを見て、想いなど俺がすべて向けてやるのにと言いかけ、政宗はやはりまた、口を噤んだ。光秀は子供をあやすように政宗の頬を撫でながらゆっくりと小首を傾げた。その姿はまるで悪意のない生き物のように見える。
「……失望しました?」
「――できるもんなら」
 答えながら、また夢をみていると政宗は自覚した。けれど触れる光秀の熱はたしかに今、ひどくやさしい。

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