醒めるなと願うほど
 無造作に振り下ろされる鎌は重く、風圧でさえも鋭い衝撃と変わる。安定せずに揺らめくようなのに、力が籠ればしなやかな鞭のように伸びる腕は、なによりも強かにこちらを狙うおぞましさがあった。
 六本の刀で、振るわれる鎌を薙ぎ払い、せめて眼光には負けられぬとばかりに隻眼で睨み付けると、しかし睨み返されるどころか嬉しげな顔をされた。
「すばらしい!」
 光秀は笑う。笑みは平常のそれよりも深く、恍惚の色さえうかがえる。つられて、政宗も笑った。
「HA! いいねぇ、あんたのそういうとこ……楽しくてしかたねェ!!」
「それはそれは……ふふっあなたもお好き、でッ!」
 鎌の輝く刃が届きそうになり、慌てて刀で受ければ、金属の爪とも言える自分の刀が痺れるように震える。
 薙払われると同時に後ろへ飛べば、すぐさま跳んで追って来る光秀は二双の鎌を振りかぶった。「死ィ――」その唇が笑みに歪むのを見て、躯が反応した。
「んな…!」 反射的に鎌ごと押し返せば、ものの見事に痩躯が吹き飛んだ。竹林に埋もれる白い躯が、緑の葉に隠れる。一瞬にしてぞわりと肌が粟立つのを感じて、政宗は慌てて竹林に埋もれた光秀に駆け寄った。
竹薮から起き上がる光秀の腹から、血が零れているのが見え、「shit!」と思わず吐き捨てる。
しかし刀を捨てて手を伸ばせば、白い影は跳び起きるように伸びた。
「殺し合いの、最中ですよ」
 ひどく冷たい声が向けられ、同時にひやり、と刃が首を狙っている気配があった。だが、政宗は刃を向けられたことよりも血の匂いがすることに、まず腹がたっていた。
「そんなもん、ヤメだ。傷見せやがれ」 刃を無視して、乱暴に腹を見る。見れば、白い着物に、血がじわりと滲み出ていた。「Your fool! もっとちゃんと避けろ」
しかし光秀は首を傾けて、眉をよせるだけだった。ただ、鎌はすとんと地に落ちた。
 痛みを感じていないのか、長髪に隠れた右目が髪の隙間から覗き、不思議そうに揺れている。
 政宗は奥歯を噛んで、光秀の言葉を待った。ほどなくして光秀は首を傾け、ぽつりと訊ねた。「……殺し合うのは、おあずけですか?」
「――俺は、てめぇを殺すと言った覚えはねぇよ」
 乱暴に傷口を押さえると、血は当然押し出されて新しく零れたが、しかしぼたぼたと地に落ちる量はさほど多くなかった。どくり、どくりと静かに脈をうつのを感じてわずかに息を吐くと、光秀はその手が邪魔だと言いたげに手を重ねてきて、戯れるように指先が絡められる。
「それはつまらない……ああ、残念ですねぇ」
気の籠らない言葉を吐きながら悪戯をする手首を掴めば、防具の上からだと言うのに尖った骨の気配があった。手甲の下にこれは、何を隠しているというのだろう。本当に血肉があるのか、と血の色を見たばかりだというのに疑いたくもなる。
「どうかしましたか、独眼竜?」
「なんでもねぇ」
 いささか乱暴になったのは自覚できたが、自分と共に立ち上がらせながら、光秀を腕のなかへと誘いこむ。そして頭一つは違う身長をいいことに、政宗は光秀の胸元に額をよせた。しかしそんなことをしたところで相手の鼓動が聞こえるわけもない。ただ、血の匂いが増したように思えた。

*夢見がち政宗。
政宗のほうが色々覚悟をしてるけど結局甘い。光秀は覚悟どころか自分が死んだ後も気づかないので甘いとかいう次元には永劫たどりつかない。

<<return.

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