ねだるのなら声にして
 ひんやりと冷たい手が背後から伸ばされ、政宗の両目を覆った。火鉢で温もった己の手でその指先に触れる。あまりの温度差に火傷でもさせるのではないかと触れてから思ったが、光秀は気にした様子がなく、伸ばした自分の指先を人の目の上でそのままからめて、しばらくは離さないつもりのようだった。後ろに引くわけでもなく、しかし手のひらを押し付けるように眼窩を圧迫される。潰した右目の眼窩にはもはや目玉などつまっていないのだが、それを確かめたいのであろうかと政宗は思った。だがやはりそれも違うようで、光秀は何も言わず、ただ冷たい手のひらで政宗の目元をわずかに圧迫しながら押さえているだけだ。
「……そろそろ朝餉の時間だぜ」
「おや、それは楽しみですね」
「それまでには終わるか? 箸も持てねぇ」
「なんのことでしょう?」
「――おかげさまで何も見えねぇんだが」
 と言えば、光秀はまるで思いつかなかったというような声をあげて詫びた。すぐに手が解かれ、政宗はようやく瞼を開けた。暗闇に落とされていた瞳が光を嫌うように眩しさを訴えるので、瞬きを繰り返す。すると光秀が音もなく背後から右隣へと移動するのがわかり顏を向けると、骨を感じる指先で、無粋に顎を掴まれた。顎の骨と光秀の指の骨がぶつかるようでわずかな痛みがあった。
「何だ」 しかし顎をわずかに持ち上げられるとは、まるで口を吸われるときのようだった。政宗はそう思い、唇に笑みを乗せる。唇を重ねられたら戯れに噛み付いてやろう、と期待したからだった。だが光秀はいつの間にやら手に隠していた眼帯を見せると、呆気なく顎を開放し、期待はずれに左目を丸くした政宗の右目に眼帯を付けただけだった。
「眼帯をつけて差し上げようと思いまして」 抱きつくように腕を頭の後ろへ回し、少しきつく眼帯の紐を結いながら光秀は言った。「……なにか期待を?」
 含みをもたせた笑みを薄く見せ、そのくせ離れようとする光秀を捉えて、政宗は火鉢に寄らせた。それから、赤くなった炭がぱちりと小さく音をたてる横で、色素の乏しい光秀を抱き寄せるついでに「あんまし誘うな」と耳朶を食んでやった。

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