幾度も結び、幾度も壊す
「見よ、長曾我部。夜が明ける」
 元就の視線をなぞり、水平線を見れば確かに日の出が始まるところだった。
「休戦も、これにて解消だ」と言いながら日輪を眩しそうに見つめる横顔に目線を戻し、元親は「応」と答えた。
 この船が陸に付けば、こんな穏やかなやりとりは終わりだ。瀬戸内海を挟んで領地を納めるもの同士として周辺諸国に対して共同戦線をはることも少なくはないが、やはり敵には違いがないのだ。また次に会う時は殺しあうことも厭わない。
「これで何度目だか覚えてるか、協定やめんの」
「馬鹿馬鹿しくて数えておらんわ」
「だよな。俺も数えてねぇ――なぁ、毛利」
「なんだ」
「四国はやらねぇからな」
「ふ、貴様なぞに許可を請うものか」
「言ってくれんじゃねぇか。だがな、あんたの水軍に負ける俺らじゃねぇぞ」
「我とて、海賊風情に屈する脆弱な駒は持っておらんわ」
 元親が今更ながらの宣戦布告をやれば、元就はいつものように淡々と切り返した。しかし珍しくも今日はそれだけではなく、表情を僅かに崩して元親へと向き直り、唇を薄く開くようにして笑った。「せいぜい貴様は海賊行為で蓄えを肥やしておけばよい。さすれば我がうまくつかってやろうぞ」
 元親は正面からその表情をとらえてニヤと笑みを返した。隻眼を細くして、囁くように声を落とす。
「あんたこそ――せいぜい、そのお綺麗な面汚さねぇよう気をつけてりゃいい」
気が向きゃ奪いに行ってやる……とからかうように繋げて元親は元就の顎をなぞろうと手を伸ばしたが、指先が触れるより先に躊躇なく手を打たれた。
「図に乗るな田舎者め」 手をはねのけながら眉を寄せたかと思うと、元就はすぐにくるりと背を向けて甲板から飛び降り、振り返る事なく船内へと姿を消してしまった。仕方がないので元親は打たれた手を情けなくひらひらと振りながら、舌打ちをした。
*塩オクラさんが漫画化してくださいました!>>「幾度も結び、幾度も壊す」(2010.09.25)

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