価値観放棄
 軽い足取りで足元からライドウの肩まで上った黒猫は爪を外套にひっかけるようにして、整った顔の隣に小さな頭を寄せた。「血が出ている」と、しなやかな体を伸ばし、ざらりとした小さな舌で頬を舐めたのだ。
 唐突な業斗童子の行動に対応が遅れたが、小さな濡れた舌の感触と、染みる痛みに、ライドウは戦闘中に砕けた氷塊のかけらが頬を掠めていたのを思い出し、一呼吸置いてようやく合点がいった。
「すみません」
「謝るな――ただ、お前の顔は整っているから、傷がつくと周囲がやかましかろうよ」
しかし窘めの後に続いた言葉の意味がよくわからずにライドウが小首をかしげると、ゴウトは「ふむ」とうなってみせた。「お前、自覚はないのか?」
「どのような自覚?」
 ゴウトのなめらかな背を撫でながら、ライドウはくすりと笑った。「なんにせよ、ゴウトがそう思うのなら、そうなのだろう。僕はそれで十分だ」

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