揺さぶって
「だん、な……俺、」
柱に背を押し付けられた佐助の唇から、懇願めいた声が漏れる。しかしその言葉一つでも漏らすまいというように幸村は佐助の口を幾度も吸った。角度も深さも、舌を吸う強さも乱暴で思いやりなどないのだが、佐助にはそれが途方もなく愛されているという事柄そのもののように思えた。扱かれ、幾度も指の腹で擦られ、潰すように握られた肉棒がまたゆるゆると勃ち上がり、幾度も出されてすっかり薄まった蜜をまたとろりと垂らす。
「んッ…！ は、ァ…も、だめ…出る、また……」
「ふ、は……よいぞ――出せ」
佐助は幸村が自分の肌に欲情をして触れているというだけで目眩がするほどの甘い快楽を覚えるというのに、快楽で気を狂わせるのが目的だろうかと意味の分からぬ疑いさえ抱かせるほど、幸村は佐助が欲しがるのを見透かしたように触れるのだった。
「あ、あああッ」
もはやどちらのものとも言えない精液でどろどろに汚れた掌に勃起した肉棒をきゅうと握られるだけではすまない。耳の穴を指でなぞられ、思わずびくりと身体を震えさせればまるでそこが佐助の陰部であるかのように幸村の指は執拗にそこを弄った。
「だんな、だんな…」
ぞわぞわと体中を駆け巡る熱に浮かされた佐助の呼び声に、幸村は耐えかねるといった様子で首を振った。はずみで汗が佐助の肌に落ちる。吐息を漏らせば縋るように幸村の肩を掴んでいた佐助の指が怯えるように小さく震えた。ふ、幸村はと笑って「愛い奴よ」と囁き、耳を開放してやる。しかしすぐにどろどろの手で佐助の肩を掴み、指と唇で肌をなぞり、日の光を知らぬ、白く薄い胸を吸った。
「ひゃ、あ」
「俺のものだ、佐助……俺の――」
囁いて、赤子が母にするように乳首をちゅうと吸い、それだけでは足りぬとばかりに甘く歯をたてると佐助が悲鳴をあげて肩を掴む指の力が強まった。びくびくと腰の奥から這い上がる感覚が佐助の背骨ごと身体を揺らす。「手、はな、して…」
そしてその懇願が叶えられると、すぐさまびゅくびゅくと半濁ながらも勢い良く吐精した。とろみを帯びたそれは幸村の手も胸元もべたべたと汚し、また、そこからぽたりと滴り落ちて佐助の腹をさらに汚した。「あ、あ」と震えた声で腰を揺らす淫猥な佐助のさまに、くう、と呻いた幸村は、予告なく佐助の膝裏を持ち上げながら、再び侵入した。そのように勢いにまかせて押し入る質量に佐助は息を止め、しかしあてがわれた瞬間のわずかな抵抗は無きに等しかった。「あアッ」と狂った声で喘いですぐに幸村を飲み込んだ入口は程よく締まり、より奥へと腰を押されれば、脚が震える。
貫かれたまま幾度も腰を揺らされ、結合部がぐちゅぐちゅと濡れた猥らな音をたてる。背骨が柱に強く擦られ，押し付けられて痛むのさえも甘い痛みとなって佐助の理性を容易く壊していった。
また、そうして髪を乱し、荒ぐ息を整えることも忘れてぎゅうと目を強く瞑り、頬も耳も朱に染めた佐助の擦れた甘い声音が幸村の耳朶を打つ。声音ごと喰ってしまうように再び口を吸い、舌を愛撫した幸村が熱で融けそうな瞼を開いて見れば、うっすらと濡れた瞳を細くした佐助の瞳が、幸村の昂りをさらに昂揚させた。
少しずつ位置を変えて、幸村は佐助の奥を掻き乱した。とくに先程から佐助が身体を跳ねさせる所を執拗に突けば、佐助は嫌々と駄々を捏ねるこどものように頭を振る。その幼い仕草が狂おしいほど愛しくてならなかった。膝裏から、佐助の爪先が強張り、震えるのさえ伝わるその愛しさは、幸村の頭の中から佐助以外の何もかもを白くしてしまうほど強かった。まこと健気なことよと幸村はそっと佐助の膝に唇を寄せるように、抱えた脚へと頬ずりをした。
それから幸村が佐助の内へと二度目の射精をすると、佐助はとうとう声を失って、ただただ愛しい男の肩へと熱のある頬を押し付けるようにして身体の力を抜いた。ややあって、ずぷ、と一際猥らな水音をたてて、幸村の肉棒が抜き取られる。ずず、と抜けていく質量に佐助の吐息は甘く誘うように名残惜しげな響きを孕んだが、吐き出された精がどろりと外へ溢れ出すのを感じ、だらしなく開いた唇から涎が垂れそうになるのをどうにか飲み込めば、それはただ意味もなく甘いばかりの声となった。
労るように背骨を撫でる幸村が首に滲んだ汗を優しく吸う。愛しい、と甘く耳を溶かすように優しく囁かれるよりもそれはひどく佐助の頭を痺れさせた。