融けてなくなる
興奮とは薄暗いものがあるほどに高まる。だから溺れるのかもしれない、と肌を重ねる度に思えた。それは相手が自分の命をいつ奪ったとしておかしくはないからであり、魔王の腹心という立場であるからであり、とくに明智光秀という男であるからでもあるのだろう。魂を削り取って燃焼させるような興奮とは質の違うものが、しかし同じように血を沸騰させる。
光秀は政宗の怒張したものを焦らすように指先で撫で上げ、幾箇所も触れるばかりの口吸いをし、舌で鈴口を圧迫しながら咥えこんだ。
「ふ、ぅ、んん、」
咥えこんだ一物に途切れそうな息をどうにかつきながら、温度の低い指を縋るように政宗の割れた腹へと這わせた光秀はへその周囲にそっと触る。
「ンだ、よ……くすぐってぇ」
そしてささやかなその愛撫に政宗が笑うと、じゅるじゅると音をたててしゃぶっている肉茎を少し強く吸った。
「ってめ――！」
政宗は立てた片膝に肘をつきながら、半ば這いつくばって奉仕をする光秀の白い髪を梳いていたのだが、強弱をつけられるに従って、髪を梳くのではなく掴み、指先にからめるようにしてわずかに引くようにした。顎を使い、頭を揺らす度にさらさらと肩から落ちた長い髪が、床に散る。肉茎を吸い上げるようにして扱き、舌を絡ませながらも手は指先で輪をつくるようにしてその根元を掴んでいる。また、口から開放したところで止めることはなく、持ち上げるように裏筋を舐め上げ、茂みを鼻先でかきわけるようして貪欲に袋を探し出して口に含み、舌で猥らに蹂躙する。
そのくせ、それらの行為を少しの躊躇もなくはじめた光秀の着衣は、すこしも乱れていない。それはまるでこのような行為のひとつやふたつは大したことではない、と言外に言われているようで少しばかり政宗の気に触ることだった。
「ッ……ァ…ふ」
しかし、じゅるじゅると惜しむこともなく音をたてて肉棒をしゃぶる光秀に翻弄されるまま高められ、政宗は腰の奥から背中を快楽が走り抜けようと緊張しだすのを感じていた。思わず力の入る腿に、精液と唾液でいくらか濡れた光秀の白い手が添えられる。は、と乱れた息を整えるために長めに息を吐き出すと、口吸いのように小さく音をたてて亀頭から名残惜しげに口を離した光秀が、ぬらぬらと唾液と先走りで濡れた唇を拭いもせずに政宗を見上げた。
「したく、なりましたか？」
小首を傾げる唇はまるで口淫していたとは思えぬほどに背徳も羞恥も見られず、ただただ得体もなく微笑を浮かべている。政宗は思わず口角をあげて、目を細めた。ぎら、と眼光を緩めることもなく光秀を見下ろし、指から落ちきってしまいそうな光秀の髪を掴み直した。ぐ、と少し強く引けば頭皮が抵抗して手応えが返る。そしてわずかに頭を揺らしたがそれだけの光秀が焦れったく思えた。
「Ha...いますぐぶちこめってか？」
「ふふ、こわい、こわい………そのような顔はおよしなさい……」
「嫌いかい」
いいえ、と光秀は言いながら目をそらす。そして「耐えられなくなってしまう」と小さく呟いてふるりと身体を震わせた。
「なら、耐えんな」
政宗は突き飛ばすように光秀の身体を押し倒し、腹の上に腰を降ろした。すると着衣の上からでも、光秀の興奮が感じられる。
「――よくもまァ、涼しい顔しやがって」
政宗は嘲るように笑って光秀の唇に噛み付くと、袴の紐を片手で器用に解いてやった。そうしながらも光秀の興奮そのものである膨らみを寛骨で圧迫するように重心を動かしてやる。
「ふ――あッああ……！」
するとようやく光秀が声をあげて、政宗の腕をつかんだ。政宗はいよいよ愉しくなって、乱暴に着物の合わせへと掌を滑り込ませ、鼓動を感じ取ろうとするようにぺたりと薄い胸に手を這わせた。布地がわずかに擦るだけでも、もはや射精してしまいそうなほど昂っていたが、堪えて、逆に擦りつけてやる。すると先走りが布地へと染み込むのがわかり、ただでさえ乱れた息がさらにあがり、政宗の頭の中を焼き切りそうなほど血が沸いてゆく。
小さく声を漏らして震える光秀の顎を鼻先で撫でて、喉に口を寄せる。そして息が肌に触れるほど唇を近づけたまま「痛いほうがいいか」と囁けば、想像をしたのか光秀の肌が震えた。
「……OK,good boy」
それを是と取った政宗は首に軽い歯型をつけてから、骨張った光秀の脚を無理矢理に割らせた。袴から脚を引き上げるように持ち上げれば裾がめくれ、殊更色白い太腿から、六尺褌を食い込ませた尻までもが露になる。収まりながらも昂った一物が前を押し上げているせいか、褌がより一層食い込んだ様子がひどく卑猥に見え、政宗は歪む唇を舐めた。
「褌ぐらいはテメエで脱ぎやがれ、光秀――そしたら抱いてやる」
手酷くな、と付け加えると首に腕が回され、無理に上体を起こした光秀が熱っぽい吐息をしながら「約束ですよ」と耳朶を甘く噛んだ。
そして片腕で首にしがみつき、もう一方で自分の下腹を締め付ける布時を解いていく光秀に、政宗はなにもかもが焼き切れそうだ、と思った。