はじめまして、愛しの君よ
 よくきたな葛葉、とニヤと笑いながら呼ばれる名は酷く甘美である。そういえばいつだかああいうものを魔性というのだとゴウトは胡乱な目を己が十四代目へ向けながら言ったことがある。あれはどういった意味であったのだろうとライドウはゴウトをちらと見やってから、しかし回答が返るわけもないので黙って肩に背負っていたラスプーチンを手術台の上へと投げ落とした。異様に重みのあった身体にふさわしく鈍い音がしたが、人間ではないのだから大したことではないだろう。
「――? なんだねこれは」
「ヴィクトル、これは――」
 露西亜からきたというダークサマナーであるこの男が人口生命体であることをライドウがかいつまんで説明すると、ヴィクトルの唇がつりあがる。そして「なんと……! おお!」興奮に耐えられぬといった様子で頭を抱え、ふるふると身震いをして、歓喜の声をあげた。
「はははははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ葛葉!」
 ヴィクトルはひとしきり高笑いをすると、そっと慈しむような手つきでラスプーチンの頬を撫でた。それはライドウの目からみても優しく、甘い仕草で、時折見かけることのある、とてもヴィクトルらしい仕草であった。
 悪魔合体を行う際など、時折ヴィクトルはそのように悪魔を撫で、剣を撫で、彼の城であるこの業魔殿へとサマナーを迎える時とおなじような甘い声で「良い子でな」と囁くのである――なぜか不思議なほどにおとなしくヴィクトルへと頭を垂れる自分の仲魔はあの声音にやられているのだろう、とライドウは秘かに思っている。ともかくそれが故意のものであるのか無意識であるのかはわからぬが、今もそのようにヴィクトルは未だ目覚めぬ髭面の姿形を頭から爪先までじっくりと眺め、それからゆっくりと顔をあげた。さながら、獲物を捕らえてもったいぶる悪魔のようだ。見れば白い頭の下で、同じく色素のない顔が目を細めてにんまりと笑っている。「――好きにしても、よいのかね」
ライドウが頷くより先に「構うものか」とゴウトが言うと、言葉を解したのか知らぬが白衣の男はうふふと笑った。
「感謝をせねばならんな。葛葉よ――我輩はこれでまた一歩、前進することができる――ふふ、ふはは……まぁ、これが我輩自ら生み出したものでないことが口惜しいが……ああ、しかしこの者を創った者に会ってみたいものだな――」
「それで、使えるのか」
「ああ、興奮で手が滑ってしまいそうだ――はは……ははは」
 もはや問いかけなど耳に入らぬ様子でいそいそとゴム手袋に包んだ指先を動かすヴィクトルは、ライドウの存在など忘れてしまったのだろう。目覚めぬ人口生命体にそっと頬を寄せるようにして、やはり甘い声音で「良い子でな」と言った。
*ヴィクトルが…ほんと……好きです……言葉にならぬほどに……。

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