価値の有無
 傷口が膿んでいるのです、と光秀は確かめようとした政宗の腕をやんわりと拒絶した。
 それがなんともなしに気に食わず、政宗は顔をしかめた。自分のそうした部分がいかに子どもじみているかは自覚があったが改める気もなく、口を尖らせさえした。
「そんなに醜いってのかい」
「ええ、見苦しいだけですよ」
「あんたの感覚で? Ha! 一番信用できねぇこったな。見せろよ光秀。逆に気になっちまうーーわかるだろ?」
「残念ながら、わかりかねます」
往生際も悪く見せろと探れば、とうとう指先を握り込まれた。それも力一杯ではなく、まるで乙女の手をとるかのように優しく。光秀がそのように触れてくるのはひどくめずらしいことだ。政宗は思わず強引に暴いてやろうという気概を削がれた。ただ、光秀は決して傷口を見せようとはせず、どうにかその拒絶をすりぬけて政宗が触れようとするのを赦す気はないようだった。
 指先は開放されない。唯一開放されている親指で、政宗は光秀の手の甲を撫でた。光秀はじ、と政宗を見つめてから、「わがままな御方だ」と呆れたように言った。しかし閉じられた瞼の下で、瞳が笑っているのは政宗にもわかるほどで、政宗は鼻を鳴らした。
「だが俺の知らぬあんたなど、もうそれぐらいしかないだろう。自惚れか?」
 訊ねかけたが、政宗には反論など聞く気もない。光秀はそれをたしかに感じ取って、やはり呆れたように言った。 「ええ――まったく、ひどい自惚れですね独眼竜。まったくあなたは愛おしいほど愚かな人ですよ」
 しかし今度はその唇がすっかりと笑っていて、誰の目にも今、光秀がそれを喜んでいることは明確だった。政宗は思わず、つられるように笑った。「相思相愛か? そりゃいいな」

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