決して埋まらぬ
 佐助は誰にでも優しいようでそうではなく、また、人の手に任せるのをよしとしない癖がある。従ってそうした部分に気をつけていると、才蔵には随分と気を赦している事がわかる。
 おやとそれに気付いてなにやら嬉しく思い、幸村は思わずそれを口にした。しかし、佐助に言えば妙な顔を返され、また、才蔵にそれを伝えてもなにやら不思議そうに言葉を濁され、釈然としない。
 そのため、幸村は馴染みの忍びを一人、捕まえたのである。
「どうか、とおっしゃられましても――」
 不幸にも捕まえられた青年は、その顔を困惑で歪めた。
 幸村にそっくりの姿形をした青年は最初はしきりに閉じられた襖の向こうになにやらちらちらと視線を送っていたが、とうとう観念したようだった。瓜二つというほどではないが、おや、と思うほどにはよく似た顔をしている――つまり眉を寄せると俺はこのように見えるのか、と思いながら幸村はさらに問うた。
「分からぬか」
「はぁ――」
 問われている青年は自分の忍び装束を居心地悪げに掴みながら唸る。
 これは穴山小助と言って、幸村の影武者を務める忍びである。
「そもそも御主さまの価値観で量られることがむずかしいことかと存じます」と、小助は言う。
「ふむ」
「御主さまは、かの独眼竜と浅からぬ縁がございましょう?」
「うむ」
「ではかの御方は敵でしょうか。それとも、共に戦うことのできる他者でしょうか」
「いや――小助、すまぬがもう少しわかりやすく説明してはくれぬか」
「それは失礼致しました。しかし私には幸村さまの言葉にうまく置き換えられぬのです」
「むむ。では、政宗殿と俺のような間柄だと言いたいのでござるか?」
「この小助は所詮、蚊帳の外の者でございますが――似たようなものかと存じます。しかし、厳密に申しますと、決定的に違う点がございましょう」
「……やはり俺はおまえの言わんとすることはわからぬ」
 幸村が眉を寄せると、引き換えに小助の寄せられていた眉が緩んだ。
「それは御主さまが武士であらせられる証に他なりませぬ」
そしてなにかを諦めたよに思わせる表情がほんの一瞬落ち、しかしすぐさま消える。
「幸村さま。我々はどこまで行っても、忍びにごさいます。それをゆめゆめお忘れなきよう」
「――佐助も才蔵も、同じことを言う」
「さようで。ならば長さまがこの話を知れば呆れられますでしょうな」
「小助、おまえは俺の味方ではないのか」
「我々は御主さまの味方でございますよ。さて、長さまに叱られぬうちに私は失礼いたしましょう――幸村さま、あまり長さまを困らせぬようにお気をつけください」
「なにを言う。俺は困らせてなどおらぬぞ」
 仮にも主に対してお前たちはひどい言いようをしてくれる――冗談めかしてそのように幸村は批難した。
「さようで」
しかしその様子を小助はくすくすと笑うだけだった。幸村より4つほど年下らしい小助は、そのようにするとまるきりただの童のようだ。そのように思い、幸村はなにやら不思議な気持ちになった。
 だがそれを追求するよりはやく、入れ替わりに呆れた様子の佐助がやってきたおかげで、幸村はそれをすっかり意識の底へと忘れてしまったのだった。

*ついに小助まで捏造…

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