そんな嘘を言う
 なるほど智将と呼ばれるだけはあるのか、光秀の碁の腕前は小十郎も及ばぬらしかった。
「おや。また勝ってしまいました」
 光秀は黒石を決着のついた盤上から拾いあげながら言った。言葉こそ控えめなものを選んでいるようではあったが、それにしては弾んだ調子の声であった。
「ふふ……右目殿はお優しい……」
「テメェ――」
 対照的に、小十郎は不愉快であることを取り繕うこともせずに顔をしかめている。こめかみに青筋が透けて見えそうな小十郎を、政宗は笑い飛ばした。
「たかが碁程度で熱くなるなよ、小十郎。Coolにな。ンなもん、たかがGameだろうが」
 しかし、たかが碁といえど盤上の陣地取りは実際に織田の魔手が伸びるさまをまざまざと見せつけられるようであった。小十郎が熱くなるのも仕方のないことのように思われる。とくに決着間際の攻防など、政宗も家臣と客人の油断ならぬ争いに瞳を光らせ、唇に笑みが浮かぶのをこらえきれぬほどであった。
「だが、まぁ確かにいいもん見せてもらったぜ。光秀、次は俺とやるか?」
「おや」
 政宗は挑発とばかりに扇子を突き付けて、ニヤリとした。相手が光秀でなければ、小十郎が口を挟んだに違いない。だが光秀に対する政宗の振る舞いについて、もはや小十郎は口を挟む気はないようだった。光秀も気にする様子はなく、顔を綻ばせるばかりである。政宗はわずらわしさを感じることもなく、にんまりと笑った唇をつりあげたまま、どうするかとさらに問うた。
「ふふ……それはまた……嬉しい御申し出です」
すると珍しく、裏などないよう笑みで、光秀は臆面もなく言った。
「あなたのそうした無防備さを、皆様好まれるのでしょうね。なるほどたしかに魅力的だ」

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