手を取る
 たおやかな指が並ぶ白い手を取る。そのとき、長政はすこしも躊躇しなかった。気遣いの欠けたような接触ではあったが、そこに傲慢さは感じられず、それがお市には何より嬉しかった。
「今このときから、お前は私の妻だ。つまり、私はお前の夫ということだ。この意味が解るか、市」
 手袋ごしに手を握る長政の掌が熱くて、市はそればかり気になって、本当は上の空であったのだが頷いた。
だが長政は何事も額面通り受け取りたがる性格そのままにお市の本心には気付かず、満足そうな顔をして笑った――ひどく眩い笑みで。
「そうか。ならばよい」
 お市はそんな長政の笑みに、自分の心臓が音を立てるのを聞いた。そして、あまりにも明るい光に、目が眩んだかのように目を細めた。
「――うん」
「よし、では行くぞ。市、屋敷の中を案内してやろう」
 どきんと高鳴る胸の内に半ば怯えながらもお市がか細く応えれば、やはり他者の胸の内を察するような繊細さのない長政に、強く手をひかれる。お市は「はい」と小さく返事をしなおして、足が絡まぬように恐れながらも歩き出した。長政の少し早い歩調に足並みを合わせるのはお市にとって大変なことではあったが、しかし握られた手はずっと熱く、お市はそれだけでなにやら胸の奥がいっぱいになるような喜びを感じていた。
*浅井夫婦がー見たいー

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