そんなわけがない
 突然の訪問でも快く受け入れてくれるはずだった。お侍はお侍でも、青いお侍はそういうところが違う。おらたちみたいな農民の声も、真剣に聞いてくれる。そういうお侍だ。
 けれどもその日に限って、右目のお侍はむずかしそうな顔をした。
「わざわざ来てもらって悪ぃが、ちょうどいいところ、とは言えねぇな」
「なしてだ?」
 おらが首を傾げると、一緒に来てくれたみんなが騒いだ。
「おらたちが来るとまずいことでもあるんだべか」
「いつきちゃんが来たって言うのにあの殿様、なに考えてんだべ」
「これだからお侍は――」
すると右目のお侍は申し訳なさそうな顔をして、眉と眉の間の皺を、ますます増やした。
「すまねぇが、先客がいる」
「せんきゃく?」
「あまりお前らとは会わせたくねぇ客でな――だが政宗様が、」
するとその言葉の途中で、お侍の背後でざわめきがあがる。なんでだか肌が寒気を感じた気がしてそっちを見てみる。けど、なんにも変わったものは見えない。まだ遠くなのかもしれない。視線を戻すと、右目のお侍が、なにかに気付いたような顔をした。ちりちりと、肌が空気の張りつめたのを感じる。なんだか変なかんじだ。みんなはわからないのだろうか。ちらり、と背後の仲間を見てみる。けど、皆は右目のお侍のことばかり気になっているみたいだった。
 ――なんだかおかしくねぇか、とお侍に訊ねようと口を開きかけたその時、慌てた様子の声と、足音が近づいてきた。
「小十郎様!!」
「なんだてめぇら! 騒々しい!」
 呼び声に、お侍がすかさず怒鳴りつける。大きな声に肩をすくませると、みんながおらを守るみたいにそっと身体を寄せて来た。でも、怒鳴られた兵士の兄ちゃんも、怖がってるみたいだった。
「すんません! ですが、」
でも、兵士の兄ちゃんの言葉を遮って、知らない声が割り込んできた。
「おや――あなたのほうが騒々しいですよ、右目殿」
横からひょいと覗いたその顔に、右目のお侍が苦いもので噛んじまったみてぇに口を閉じちまった。
 見たこともない、さらさらと雪みたいな色の髪の毛が揺れる。お侍が何を言いてぇのか察したみたいな顔で、その兄ちゃんは微笑んだ。
「ああ、お客人のようですから私はおいとましようかと――それで、私の馬は何処でしょう?」
その白髪の兄ちゃんがお侍に訊ねながらにこりと笑うのを理由もなく見ていると、おらにようやく気付いたらしい。目があった。
「かわいらしいお客人だ」その人はなんだか嬉しそうな顔で、そんなことを言った。それと一緒にその薄い唇がつり上がるのに気付くと、なんだかおらはぞわぞわしたものを感じて身震いしてしまった。
「――おめぇさ、青いお侍さのともだちだか?」
 嘘みたいだ、と疑いながらおらが訊ねると、白髪の兄ちゃんは驚いた顔をしてから、あははと頭がおかしいみたいに笑って、違うと答えた。
*いつきちゃんと伊達の交流を考える

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