怖気のするほど
 白い長髪が、煌々と雪風に舞う。それは凍った水が日光をちかちかと瞬かせるといったようなものではなく、もっと静かな輝きが、松明の赤を秘めてきらきらと細い髪にからむようだった。
「――つまらないな」
 皆の先頭に立ち、崖下を眺めていたその人が、呟いた。子供じみた言葉にはいっそ意味などないようでさえあった。
 それは明智光秀がこの北の果てまでやってきて、三日目の夜であった。
 農村を焼き落とし、一揆を起こしたものもそうでないものも逃げ惑うなかで、くすくすと忍び笑いを漏らしていた光秀が、一揆衆の中心であった少女の首を刈ってから数刻。
 血染めの装束は焼き捨てたものの、湯で肌を清拭することを煩った光秀からはまだ血の匂いがただよっていた。戦場においては麻痺してしまう類いの匂いだが、しかし元より戦に不慣れな農民との一方的な戦――しかも明智軍が危惧していた吹雪は止んでいて、鎮圧が半ば終わった頃を見計らうように吹き荒れただけであった――において、その血腥さは異質であった。
「このようにつまらない戦など――」
不服そうな言葉とは裏腹に笑う光秀はおそらく、女神の加護だともてはやされていた幼子を殺したことを思い出しているのだろう――細く小さな切口からから、びゅくびゅくと勢いよく血の吹き出るさまを、小さく走った痙攣を。そしてその事実を受け入れることのできない農民たちを。
 光秀は少女とよぶにはまだ幼いこどもに、致命傷にはならぬ傷をいくつも負わせていたのだが、しかし最後にようやく、残忍な行為などひとつもなかったような顔で、やさしく細い動脈を裂いた。そして血が吹き出す首を笑いながら掴み、ほとんど事切れた小さな身体を周囲の者に見せつけるように持ち上げた。おかげでもはや息を漏らすこともなくなった少女の血は静かに光秀の白い手首を伝い、足下の雪面だけではなく、腕までも濡した。
 誰も言葉を発することができなかった。少女の血で染まった雪の赤さに吐き気を催した者もいた。しかし逃げ出そうにも身動き一つとる事さえも恐ろしく、できなかった。それはなにも農民に限ったことではなかった。
「さて、そろそろ後片付けを始めましょうか」
 ふいに、振り返った光秀がにっこりと笑う。
 は、と反射的に声をあげながらも、皆一様に肌を震わせたことは震えた声音で知れることであった。

*なんだか趣味が悪いだけの話になってしまった…

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