まやかしごと
 銀髪の子細を戯れに訊けば、こともなげに光秀は答えた。主には薬害であろうと。
「私は覚えていませんが、物心のつかぬころに生死をさまようような高熱にかかったことがあるそうなのです。方々の薬師にみせ、果てにはどのような効能があるかわからぬような忍びの秘薬さえ使ったそうで」
しかし熱が引き、意識の戻る頃になってみれば伸び始めた髪の根元に色はなく、その後いくら月日がすぎようとも髪の色は二度と戻ることはなく今日まで至るのだ、と光秀は他人事のように言った。
「私自身としては、最初からこの色ですが――……おや。まだ、聞きたいのですか?」
「ああ、もっと聞かせろよ」
 不思議な心持ちになりながら政宗は先を促した。光秀の声は寝物語りには低く甘すぎ、政宗には眠気などもはや微塵もなかったが、しかしこの男の過去には興味があった。なにしろ光秀には過去も未来もない。少なくとも政宗にはそのどちらも教えようという考え自体がないようであるのだ。
「それを、魔王のおっさんが知らねぇってなら尚更だ」
瞼を降ろして政宗が笑えば、光秀はすでに眼帯を奪った政宗の右瞼を、まるで宝物でも埋まっているかのように撫でた。
「――あなたは本当に、お可愛らしいことをおっしゃる」
そして「呆れましたねぇ」などと間延びした声で言いながら、しかし真か偽りかわからぬような言葉を、政宗の瞼が落ちるまでは確かに続けた。

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