罵りは耳に入らず
 幸村に団子を与えればまるで自分の役目は終わりとばかりに佐助はもう幸村に目をやることもしない。そのくせその隣で飴湯をちびちびと飲んでいるのだから、素直ではないどころか、癪に障ることこの上ない。
 腹に据えかねるというならば姿でも隠せばよいではないか――佐助が棘のある態度をとるのでますます納まりのつかなくなった幸村は役目を終えた串をまた一本増やしながらそのように思った。だが、思っていても実際に佐助が姿を消してしまうのを考えてみようと試みると、なにやら腹立たしいように思えてならず、結果としては佐助がこの場に居ることの正しさに、腹の中がもやもやと落ちつかなくなるばかりであった。
 よもや佐助はこのような思考を既に終えて、その上で静かに隣へ腰かけているのではないか、と思いついて顔を向けると、ばちりと音のしそうなほど確かに視線がかち合う。驚いて目を丸くすれば、佐助が反射的に視線をそらし、まだ湯気をあげる湯のみに視線を降ろした。怯えるようではないか、と幸村は思わず眉を寄せ、しかしふと思い当たって、顔を緩めた。これはそのような感情めいた仕草をすっかり見せずに過ごすことのできる食えぬ男であるので、その仕草のひとつひとつは佐助の意思で明確に表へ現れているものに違いないのだ。
 幸村は溜息を漏らして、とうとう空串しかなくなった皿を一瞥すると、仕方なしに忍びが大事そうに抱えていた湯のみを細い手ごと奪いとり、残りを飲み干した。そして呆気にとられる忍びを無視して茶屋を後にする。
 幸村の後ろ毛を追うように忍びが慌てて立ち上がるのを背後に聞きながら口の中をなめれば、熱くとろとろとした甘みに生姜の混じった風味が口に残っていた。今、佐助の口を吸えばおなじ味がするのだろうと思うと少しおもしろく、幸村は自分の機嫌が直るのを自覚した。

<<return.

*Using fanfictions on other websites without permission is strictly prohibited * click here/ OFP