聞く耳持たず
 君、なぁ、君。そんなふうに呼びかける鏡のような男を振り返り、ライドウはしかし向けるべき言葉を持たないがために黙る他ない。
「君、聞いているのか」
 呆れたようにそれを見て、腕を組む書生ははっきりと残る傷痕のせいもあってか、ひどく高圧的な態度をとっているように見えた。
 大きな傷を二つも顔にこしらえて、しかし自分と同じ姿形をした彼は、雷堂という。こちらの、ライドウのいた世界と瓜二つのこの世界の葛葉雷童十四代目その人であるという彼は、たしかにゴウトを瓜二つの黒猫――ゴウトと同じように、マグネタイトが漏れ出すような、美しい緑の瞳をしている――をつれていて、声ひとつとっても、同じであるとゴウトはいう。ライドウの瞳に映る姿もやはり、鏡と見まごうほどに似ているとは思う。だが、いつか盗み聞いた他人の瞳に映る自分の印象と、こうして目の前に存在するもう一人の自分の印象とを比べると、かけ離れているような気がしてならぬのだから不思議だ。
「聞いてやってはくれんか、十四代目」
 業斗――ゴウトと同じ声の、しかしゴウトとは違い、自分を名で呼ぶことはない――の声が呼ぶのに促されるように下へ目線を向けると、雷童がとうとう怒鳴り声をあげた。
「我は聞けと言っているのだぞ!」
 このようなことで取り乱すなど、雷堂はまだ幼い精神を抱えているのだろうか、と不思議な気持ちを抱きながら、形ばかりの謝罪を口にして、ライドウはやはりもう一度業斗と、その横で丸くなっている自分の目付役を盗み見た。
*雷堂はかわいいなぁ、という気持ちをこめた。

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