灯る
 ふふ、と小さく笑う白い顏は整っているが、いくら慣れようとも薄気味の悪さがついてまわる。細められた瞳にはたしかに自分が映り込んでいるように見えるが、実際その眼球の奥がなにを見ているのかわかったものではないからだろうか。
 それでもじっと隻眼で見つめてやると、そんな政宗の頬に、細く白い指が添えられる。あのような大鎌を振り回す両手のくせに、ずいぶん細い。しかし骨のある蛇のようだな、と思うその指は無言で政宗の右頬をすべり、眼帯の下に潜り込もうとする。一瞬の躊躇いは互いにあった。だがそれを、政宗は抵抗する気はなかった。光秀も、やはり躊躇しただけであって諦めはしなかった。
 眼帯の下を光秀に見せるのは、初めてのことではなかった。そして光秀が眼帯の下を見たいとねだるのも、やはり初めてのことではない。なにが楽しいのか知らないが、光秀は潰れた右目のあたりをゆるく撫でるのが好きなのだった。
「いいかげん、こんな野暮なものはお外しなさい」
 光秀はまるで傷口を労るような指で眼帯の縁をなぞる。
「野暮か? まぁ、小十郎がyesとでも言えば考えてやってもいいぜ」
その探るような指先がくすぐったく、左目を細めながら政宗が笑うと、光秀は唇に笑みを残しながら「つれない方だ」と言った。
 やがて光秀の腕が頭の後ろに伸ばされ、眼帯の紐を探り出す。代わりに政宗は自分の指を、男の無防備な白い喉に伸ばした。喉仏を指の腹で撫でると、光秀は喉を震わせて楽しげにする――あなたの指先ひとつで、今、この私が死ぬことだってありうるのですよ。ねぇ、倒錯的だとは思いませんか、などと戯言を囁いて唇をつりあげるのだ。まぁ確かにおもしろいことには違いない。でなければ誰も、そこへ手を伸ばしたりはしない。それを許す事もしない――。
 喉を撫でられながらも眼帯を取り上げた光秀はそれをもてあますように手に絡ませた。小さくくすくすと笑う意味はわからないが、布団の中でゆるく暴れる足からして、どうも上機嫌らしい。
 どこを見ても白い肌は雪国の女のようだが脂肪の色が見えず、絶えず病的な影を落としている。「けど、腹割れてんだよなァ」 ぽつりと呟くと、首をかしげられた。首をかしげたいのはこちらだと思うが、口をつぐむ。長い髪が類似色の布団の上で踊る。目を奪われるのはその色か。それとももっと確かな理由があるのか。
「独眼竜――?」
「黙んな」
 政宗は光秀の瞼を指で押さえて目を閉じさせ、押し当てるようになった指を離すかわりに、喉笛へとやわらかく噛み付いた。ぞくりとしたものが背筋を走っていく。きっと光秀も同じような感覚を覚えたのだろう。白い身体が微かに震えたのが感じられた。

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