一二三四五六七
手始めに上半身を拘束していた皮紐を取り除き、改めて麻縄で手首を縛るだけでも、光秀はうっとりとした顔で笑った。それを「さすがだな」と嘲るように政宗が言ったこともあってか、光秀はとろりとしはじめた瞳をより細くして、ため息さえ漏らして、緊縛を受け入れた。
後ろ手に縛った縄を前へまわすようにして二の腕ごと光秀の上体を縛ると、政宗よりもしっかりとした骨格であることがことさら強調されるように思えた。そもそも光秀の腕力は時折政宗を凌駕するのではないかと思わずにいられないものだが、そのくせ忍びのような細い身体でも、武人らしい筋肉のついた身体でもない光秀は、なにやらひどく奇妙な印象を与える裸体をしているのだ。とはいえ、縛ったところで肉の足りぬ光秀の白い肌へ麻の縄が巻きつくというのは想像していたよりも錯誤的であり、政宗の嗜虐芯をくすぐるものだった。縄を解けばいっそ青いほど白い肌には赤い痕が浮かび上がることだろうと思うと、解いてやるのが楽しみでもあるほどだ。
「スリリングだな」
つぶやいて、必要以上に縄を肌へ押し付けるように引くと、甘えるような声が光秀から漏れた。
「さすがはあのガキにしょっちゅう変態呼ばわりされてるだけ、あんのな」と思わず小さく笑うと、光秀は薄い唇で、同じように笑った。
「ふふ……お気に召されましたか、独眼竜――」
だが、すでにその息はこれから与えられる行為への過度な期待に蕩けていた。
「ああ。ほんとにアンタ、好きものなんだな」
「あはっ私は、素直なだけ、ですよ」
 二の腕を二週し、縄を肩甲骨の中心に近い部分で結び始めと交差させて固く結んでやると、ただそれだけで人体というのは肘をあげることさえもできなくなる。光秀がそれを確認するように身じろぐだけで、麻縄が肌をすべるなんともいえない音が小さく耳に入る。その身体を畳みの上へと乱雑に放り、光秀の背に足を乗せながら政宗は自分の掌を見た。思わず眉を寄せながら、そのように摩擦ですこし熱を持った掌を見つめたのは、手入れされていない麻縄が縛っている政宗の掌にもちくちくとささくれのような痛みを与えていたためだ。しかし肌を直接拘束される光秀はその些細な刺激さえ愉しんでいるようだった。今や肌を興奮にわずかながらも血色をよくし、熱のこもったため息を漏らして白い髪を揺らす姿は扇情的でさえある。
「おいおい、待てよ」
しかし放っておけば一人で極まってしまいそうなその様子に、政宗は肩甲骨を踏みつけるようにして、縄の結び目を踏みつけた。
「あっ」
すると、縄がしまり、わずかに反ろうとする体に反して、光秀の膝がぎゅうと閉じられた。
それに気づいて、政宗はしゃがみこみ、薄墨色の袴の合わせをわざとらしく撫でてやった。するとさらなる過剰反応が、光秀から返った。びくりと過剰に震える身体に、政宗は思わず口笛を吹いた。交差する前紐と後紐から、肌を覗かせる股立までを爪を短く切り込んだ指先でなぞる。触れるか触れぬか、といった際をなぞるだけで、光秀が頭をあげた。
「あ、あっ 独眼、竜っ!」
弾んだ悲鳴をあげながら光秀が身体を折ろうとするおかげで、股立がたわみ、下帯が覗きそうにさえなっていた。
「そんなにいいのかい、なぁ。俺はあんたと違って、これまで閨で縄使ったことなんざねぇんだが」
「あっああ……いいっ…いいですっ…そんな、あなたにっ……は、ああっ こんなっ 縛られている、なんてっ!!!!」
「Ha,ただ腕縛られてるだけだってのに、こんなにするぐらい、って…? 破廉恥なこった」
屈みこんで耳朶を舐めるように囁いてやれば、光秀は歓喜して身じろぎ、束縛を愉しむように腕を縛る縄をますますきしませる。自分を置いて一人で興奮を高めていく光秀の、滑稽でさえある姿にしかし政宗は唇をつりあげながら、股立に手を差し込んでやった。下帯を掌で撫でると、その下で光秀の男根がはちきれそうなほどの熱と質量で布地を圧迫しているのがわかる。触れるだけで、光秀の身体に電流が走るようだった。
「あっ あ、あ、だ、だめです……いいっ……気持ちい、い……っ」
「イっちまいそうか?」
撫でるのではなく抑えるようにぐ、と力を込めると、光秀は髪を振り乱し、足をばたつかせて悦んだ。そして暴れようとするのに抵抗する縄が、ぎちぎちと音をたてる。麻縄が肌をすり、きっとすでに皮の剥けた部分もあるのではないかと政宗は思ったが、検分しようかとする政宗を止めるように、光秀はあられもなく喘いだ。唾液が唇の端からとろりと零れて、畳を湿らせる。それを拭うように口元を指でなぞり、唇に指をくわえさせれば、噛み付くように吸い付かれた。
「ん、ん、、は、ん、ぁっ」
舌を潰すように押してから、指を引き抜くと、栓をされていた瓶の水が抵抗を失って放出されるように光秀が喘いだ。濡れた指に胸を這わせると、触ってもいない乳首がぴんと張り詰めていて、そこを潰すように触ってやれば、身体が跳ねるように痙攣さえした。
「あっあああっ 独眼竜! あっ も、もっと…っん、ん!」
「――こんなじゃ、足りねぇか? いっそ、あんたが自分で縛り方でも指導するってのは、どうだい?」
 政宗は冗談半分で言った言葉であったが、その提案は光秀にはさらに興奮をさそったらしい。声にならぬ声をあげると、頭を畳みに擦り付けるように揺らし、光秀は蕩けた声で是と答えた。

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