透明
 くすくすと笑う悪魔の腕が、強欲なことに――所有を宣言するように――十四代目の体を抱くのが見えた。
 ライ様、と毒を孕んだように甘い声がどうにも不快感を煽るので、ゴウトは目を閉じ、鼻先を自分の毛皮にうずめるように丸くなった。しかしまるでこれでは、と己の思考回路が正常に動いていないことにいらだちが募る。ばかばかしい。ばかばかしい、まったく、阿呆のようではないか、これでは、これではまるで。
 しばらくそのように唸り声を押し殺してむむと頭の中で考えを組み立てては崩すことをしていると、まるでそれを見越したように十四代目の声が「戻れ」と命じるのが聞こえた。おや、とマグネタイトが維持していた悪魔の肉体が管に収まるのを図ったようにゴウトが目を開けると、驚くことにいつの間にか少年の白い指が眼前に伸ばされていた。
「ゴウト」 十四代目は黒猫の毛並みを指先で撫でながら、微笑する。なぜ微笑しているのか、またその微笑が自分を侮っているようでどうにも不可解で緑色の目を細めると、目元をまるで日光なぞ知らぬような美しい指先がなぞる。
「なんだ」
 ゴウトは顔をあげた。しかし十四代目は笑みをくずさずにただ「ゴウト」と名前を繰り返した。
 強弱を変え、甘さを変え、一生懸命親の気をひく雛鳥のようだなとゴウトはただただ呆れた。

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