ツクは不幸の夢を見る
 旦那の魂はきっと炎で出来ている。煉獄の炎かも知れない、などと俺は時折、彼には似合わぬことを思う。
 だが、あの身に巣食うのは清廉な炎だ。穢れを払う炎。その化身であるのだろうあのお人。俺はあの人の側にいると苦しい。肌が灼かれるようで、喉が焼かれるようで、肺が爛れてしまいそうで、その炎が俺を焼かぬところなど微塵もないようで怖い。
 そのことをぽつりと洩らすと、かすががぞっとした様子で言った。
「お前の盲目ぶりにはほとほと呆れるな! あれが清廉だと? お前、夢でも観ているんじゃないのか?!」
「なぁに、そんな目くじらたてて。おまえンとこの軍神さまだって、似たようなものなんでしょ、おまえにとっては」
「あの御方とあの馬鹿を一緒になどするな!!」
 相変わらず感情の発露が激しいかすがは、観ているこちらがはらはらするほど枝を揺らして叫ぶ。叫ぶんなら真夜中はやめなさいよと思いながら、俺は秘かに彼女の足が間違えて枝から落ちないことを願う。ああどうか落ちてくれるなよ、こんなくだらぬ言い争いで。
「はいはい、ごめんね。でもそれ、俺の台詞でもあんのよ」
「ふざけるな!」 かすがは金色の、きらきらした細い髪を月明かりの中で暗闇に散らすように頭を振った。
「煉獄の炎というのはわかる。あれは綺麗なものではない、佐助」
 この美しくて、儚い、俺が唯一殺したくはないとおもえるくノ一は眉を寄せて、続ける。まるで俺を心配するかのように。
「おまえ、喰われてしまうぞ」
けれど俺はその言葉にぞくりと肌が粟立つのを覚えた。恐怖ではない。
「……いいね、それも」 唇が歪む。するとかすがは諦めたように姿を消してしまった。
 最後に「ばか!」と怒鳴る声が聞こえて、俺はなんだか不思議な気持ちになった。

*ツク=フクロウ、もしくはミミズクのこと。

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