転じて生まれて
 解剖用の小さなナイフを神経質に持つ男の、一本に結んだ髪が解けそうになっていた。
 いつか光秀であった男。やはり今生でも年上で、奇麗な顔立ちをしていた。今生ではどこか以前よりも日本人離れしていると指摘すれば、何代か前に海の向こうの血が入ったらしいことがわかった。自分は目玉をやはり一つ無くしてしまったが、そうしたことはなかったので政宗はそれを聞いて奇妙な気分になった。
 髪を結び直してやろうか迷っているうちに、光秀の確認は終わったらしい。
 片付けを始める光秀からちらりと犠牲者に目を向けつつも、「今時、わざわざ蛙の解剖なんぞするもんかね」と政宗が問えば「人は小さな命を摘むことから慈愛を覚えるのですよ」と教師らしいが彼らしからぬことを面白そうに言って答えた。
それに解剖をするのは愉しい、と少し声をはずませる。ようやく“らしい”と思えて少しばかり安堵すれば、見透かしたように光秀は続けた。
「それにしても、いくら割いても、どこに魂が隠れているのかわからないのが不思議です。意識はどこにあるんでしょう」
「さてheartだか、headだか……heartってのはなかなかromanticだな」
「物を考えるという意味ならheadではなくbrainでしょう?」
 南蛮語はわかりませんよとつまらなそうに言った顔を覚えていたので、そのいらえに驚いて目をみはれば、光秀は不思議そうな顔をして、しかしすぐに「ああ」と小馬鹿にするように笑った。「いつまでも戦国時代のままでいるわけがないでしょう?」
 変わる。変質する。それが輪廻転生というものですよと笑う。嘘のようにいつかと変わらない姿形のくせに、そんなことを言う。そういうものだろうか。だがわからなくはない。確かに自分も、あの頃と同じかと問われればやはり違うと答えるだろう。本質だけは変わらぬと思うのは、ただの願いであって事実とは限らぬことである。
 政宗は手を伸ばして光秀の首に手を添えた。光秀の手が止まり、薄い色の瞳が自分を見つめるのを確認するように残った一つの目玉で見つめ返してやる。
 今の政宗にあの頃ほどの握力はないが、けれど変わらず低い光秀の肌は冷たい。動脈に添えた親指が脈を感じるのがどうにも夢を見ているかのようで、間違って自分がそれを止めてしまうことがないように、政宗は結局ゆるゆるとその手を解いた。
 今生では呼び止める前に、ひどく懐かしい名で自分を呼び止められた。だからこそあの頃に未練があったのかも知れぬと思うのは、どうか互いに同じであれば良いとばかり考える。
*現代転生で政光。現代だとなおさら互いの接点が薄くなって、ずいぶんともどかしそうな気がします。

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