思わせぶり
 おれとゲイルの意見が一致するなんてこと、まずない。だってゲイルの機械みたいな思考、おれにはちょっと理解できない。それはゲイルにしてもそうだろう。ゲイルはおれの考えを「論理性に欠ける」と言ったことがある。
 だから、意見というかおれたちの声が揃ったことに、おれが目玉を丸くしているのに気づいたゲイルが、綺麗な緑色の目玉を細めて首を傾けたのは意外だった。
「なにかおかしな事でもあったか、シエロ」
「だって、珍しいだろ。おれの意見がアンタと一緒なんてさ」
「――そうでもない」
「そう?」
「論理的に考えなければ、俺も普段からお前の意見と同じことばかり言うだろう」
 ゲイルはそう言って、すこしだけ、ほんとうにほんとうにすこーしだけ、唇の端をつりあげた。一瞬だけ。幻覚かもって思うぐらい。
 でも、たしかに、おれはそれをみた。
 ぜったい、みた。間違いない。
「――褒めてんのかなんだか、ちょっとよくわかんねぇけど」
 めずらしいものをみた、から。
 ゲイルがその言葉に、微笑みに、どんな意味をこめたのか、意味なんかなかったのか、ぜんぜんわからないけど。
「ありがと」
 なんだか照れて、そっぽを向いた。
 まぁ、参謀殿はおれのそんな言動、気にもならないんだろうけど。

*2009/11/14 ゲイルとシエロ。カップリングじゃなく。萌茶で書いた。(お題:思わせぶり)
素直
 猫の身体に人の魂が入っているなど、言ったところで言葉を解さぬ常人には信じられぬことであるから、書生が猫を構う様子など、道行く人間はたいして気にも留めない。
 だから、今この町で黒猫が本能に抗おうと努力していることを理解しているのは、当人以外には猫じゃらしを右へ左へと揺らす書生ぐらいなものだ。
『おい、ライドウ』
「なんです、ゴウト」
 しゃがみこみ、いつも自分の足元をついてまわる“お目付け役”の目の前でゆらゆらと草を揺らしながら、書生は涼しい声で答える。
『何度も…何度も言うが、おまえ、俺をただの猫だと思っているだろう』
「おもっていない――と、何度言えば」
『ならば何故おれの前で……そ、そんなものを、ふ、ふるな!』
「これは――本能に従うほうが、あなたのストレスを軽減できるかと」
『ふざけるな! くっ、そ、そんな草などでこの、俺のっ崇高な魂は…ッ』
 肉体の本能が赴くまま、目付け役が当代の葛葉ライドウに屈服する日も遠からず。
*2009/11/14 ライドウとゴウト。基本だよね!萌茶で書いた。(お題:素直)
吸血について
「何故、躊躇を?」
「快楽は欲していない」
「でも私には許した」
「!」
睨みつけるヴィクトルの目が、けれど欲の色をうつしている。
「あれはお主があおるからだ! 恥を知れ葛葉!」
「何故いけない。研究のじゃまだとでも?」
「邪魔だ」
「じゃあ邪魔をしよう」
「ふざけ――」
「邪魔をするだけ、あなたが私と関わる時間が増えるだろう」
ライドウは言って、ヴィクトルの手をとると、手袋越しではあったが、その手の甲へと唇を落とした。いつか、ヴィクトルが女性悪魔にそうして触れるのをみたからだ。それからヴィクトルの頬に手をそえた。
「わたしはあなたに興味がある。ドクター、あなたはないのか? 研究対象としてでも、わたしはあなたにとっては魅力がないのか」 ヴィクトルは折れるだろう、とライドウは思った。短いつき合いではあるが、この男がある種純粋であることはわかっていた。そう、純粋なのだ。その身を半分悪魔へ落としてしまうほどに。
「悪質な餓鬼め」
ヴィクトルがつぶやいた。
好きだと思うのはそういうところで、ライドウはおずおずと自分の手のひらに口をよせ、薄く口を開くヴィクトルをみて目を細めながら笑った。
「誘ったのはそちらだ。忘れるなよ」
そうして鼻先を寄せて、一瞬ばかり口づけ、傷口を舐めようと伸ばされかけていた彼の舌をわずかに舐めた。
「忘れるものか」
ライドウは答えた。忘れるほど薄情ではないし、無防備なヴィクトルを忘れることなど、とてもできそうになかったので、嘘ではない。ライドウは、ヴィクトルが忘れてしまっても、おぼえているだろう。この瞬間。彼の唇がそっとふれてくるのを。牙をたてられるのを。彼が躊躇し、自分を気遣ったことを。それらすべてがライドウのためではなく、彼自身のための言動であるとしても。
*2009/10 ヴィクトルとライドウ。同人誌の没パターンだった…。ごめんね貧乏性で…

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